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FFT解析機能を利用したリプル電流測定方法

アルミ電解コンデンサの寿命計算などで使用するリプル電流実効値を測定するには、オシロスコープのFFT機能を用いる手法が有用です。ここでは動画を使用して実際の手順を解説します。
複数の周波数成分が重畳される例
アルミ電解コンデンサを力率改善回路(PFC)などで使用した場合、整流後の商用電源周波数(100Hzまたは120Hz)とスイッチング素子に起因する高周波が混ざり合ったリプル電流が重畳されます。
DC/DC電源の場合にも複数のスイッチング周波数成分や高調波に伴う複雑な周波数成分を持つリプル電流が重畳されます。
これらの場合、波形からリプル電流実効値を算出することは難しいのが実情です。
FFT解析について
オシロスコープにFFT解析機能が搭載されている場合、周波数毎にリプル電流実効値を算出可能であり、その値を合計することで特定の周波数(120Hzなど定格リプル電流規定の周波数)に換算したリプル電流実効値を求めることが出来ます。
FFTは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)の略で、周波数とリプル電流実効値で解析した場合には測定された波形を周波数毎に分離して実効値を算出することが出来ます。

フーリエ変換の概念
フーリエ変換の概念

操作手順
【機材選定のポイント】
  • オシロスコープ
    レコード長が100k以上の機種を使用してください。
  • 電流プローブ
    回路の周波数帯によって、ACプローブとDCプローブを使い分けます。
  • 延長ケーブル
    電流プローブを取りつけるときにコンデンサのリード線を延長する場合にはインピーダンスへの影響を軽減する為に太径のケーブルを使用してください。
【オシロスコープの操作】
  1. コンデンサの端子をケーブルで延長し、電流プローブを装着します。
  2. 想定される負荷条件で回路を動作させ、オシロスコープに整数倍の波形周期が表示される状態にします。

    波形周期が整数倍表示になっていない場合、FFT変換後のリプル電流が正しく見積もられないケースがありますので、ご注意ください。

    整数倍の波形周期
    波形周期が整数倍で表示されている例
    整数倍ではない波形周期
    整数倍の波形周期になっていない例
    (左右の波が途切れている)
  3. オシロスコープのFFT解析機能でタイムドメインから周波数ドメインへ変換してください。
    ポイントはLiner RMSで表示することです。
【FFT解析データの処理】
  1. オシロスコープからデータをエクスポートします。
    CSV形式などのフォーマットで外部出力すると便利です。
  2. エクスポートしたデータを表計算ソフトで開き、X軸を周波数、Y軸をリプル電流実効値にして散布図を作成します。
  3. 散布図からスペクトラムのピーク値と周波数を読み取ります。
    この値が各周波数のリプル電流実効値となります。
【コンデンサ発熱計算への利用】
ここまでに算出したリプル電流実効値を使用して、コンデンサの自己発熱を求めます。
  1. 周波数補正係数を使用して、FFT解析で測定した各周波数のリプル電流実効値を使用するコンデンサのリプル電流規定周波数(シリーズにより120Hzまたは100kHzなど)へ換算します
  2. 周波数補正したリプル電流実効値を合成します。
  3. 定格リプル電流と、周波数補正されたリプル電流測定値を使用して発熱値を計算します。
    測定したリプル電流値からコンデンサの発熱を計算する方法は「アルミ電解コンデンサの寿命」に関する記事で詳しく説明しています。
お役立ち
寿命計算に用いるコンデンサ周囲温度の測定方法についての記事も用意しています。合わせてご覧ください。
(参考) オシロスコープの設定
  1. FFT解析のポイント
    様々な周波数成分を含んだ波形、例えば120Hz成分、80kHz成分、100kHz成分が含まれたリプル電流波形の場合、高周波成分よりも低周波成分の方がコンデンサの内部発熱に大きく影響してくるため、120Hz成分(最も低い周波数成分)の整数倍周期分の波形でFFTを実施します。
    (アルミ電解コンデンサのインピーダンス周波数特性を参照)

    整数倍の周期の切り取り方法は以下の3種類があります。
    • オシロスコープの画面に表示された波形がFFT解析の対象になることから、オシロスコープの横軸(時間軸)を調整して、画面に120Hz成分(以下、交流60Hz全波整流の場合を想定して120Hzと記載)の整数倍の周期を納めてFFTを実施する。
    • オシロスコープの「ゲーティング機能」を使用することで、120Hz成分の整数倍の周期をゲーティング(切り取り)して、その対象範囲でFFTを実施する。
    • 横軸(時間軸)の微調整やゲーテイングができない場合は、多くの周期分の波形(10周期程度)を画面内に取り込んでFFTを実施することをお薦めします。時間軸は波形の両端が連続的なのか否か判断できるくらいの時間範囲にすることが推奨であり、一般的なオシロスコープであれば10周期程度が適切と思われます。
      多くの周期分の波形を取り込むことで、画面両端の波形の不連続部の影響を小さくすることができます。しかしながら、この手法は誤差を小さくする方法であり、誤差を完全に取り除くものではありませんので注意が必要です。
  2. オシロスコープの窓関数について
    正確なFFT解析結果を得るための条件は「FFT解析対象の波形が繰り返し(連続的)になっている」というものです。
    周期的な波形で、オシロスコープ画面両端の波形に不連続部が生じている場合、その波形を元にFFTを実施すると、真値に対して大きな誤差が生じる可能性があります。
    よって、画面両端の波形に不連続部が生じている場合、窓関数(window function)を用いて不連続部を連続的になるように変換する(両端部が連続になるように波形に重みをつける)手法が取られます。窓関数にはいくつかの種類がありますが、得たい目的/情報などによって、測定者が窓関数を選択する必要があります。
  3. 窓関数の選択
    一般的なオシロスコープで用意されている窓関数はrectangular window(矩形窓)、hamming window(ハミング窓)、hann window(ハン窓)、blackman-harris window(ブラックマンハリス窓)の4種類ありますが、コンデンサのリプル電流に対しては「rectangular window」が最適と判断しています。

    その理由として、rectangular windowは波形を歪ませない窓、「窓関数なし」に相当するものであるからです。また、波形を歪ませるための重みをかけていないので、分解能が最も高い窓関数であることも大きな利点です。

    上記内容に従ってFFTを実施したときに気を付けなければならないのは、繰り返し波形の整数倍周期であるのは、120Hz成分のみであるということです。つまり、他の周波数成分については、画面両端で波形の不連続部が生じてしまっているという状態です。
    具体的にはrectangular windowの窓関数を選択することによって120Hz成分については、より正確なFFT結果が出ますが、他の周波数成分のFFT結果については、波形の不連続度合いに依存する誤差が生じているという状態です。
    しかしながら、他の周波数成分は120Hz成分よりも周波数が高い成分であるため、上記Ⅲ(多くの周期分の波形を取り込むことによって誤差を小さくする)の効果が得られます。

    よって「rectangular window」が最適な窓関数であると判断しております。

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