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アルミ電解コンデンサの寿命

目次

アルミ電解コンデンサの寿命について

  1. 周囲温度と寿命
  2. 印加電圧と寿命
  3. リプル電流と寿命
  4. 充放電と寿命
  5. ラッシュ電流について
  6. 異常電圧と寿命
アルミ電解コンデンサの寿命について
アルミ電解コンデンサの寿命は、使用条件により大きな影響をうけます。環境条件としては、温度、湿度、気圧、振動など、電気的条件では、印加電圧、リプル電流、充放電などがあります。通常の平滑回路での使用では、温度とリプル電流による発熱が寿命を大きく決める要素となり、カタログまたは納入仕様書の中で、耐久性として表記しています。
また、高湿度、振動が連続的にかかる用途、充放電を頻繁に行う用途では、個々の条件での耐久性を考慮する必要があります。
1 周囲温度と寿命
アルミ電解コンデンサの寿命は、一般的に電解液が封口部を介し外部に蒸散する現象が支配的であり、静電容量の減少、損失角の正接の増大となって現れます。
電解液の蒸散速度と温度の関係は、アーレニウス則(4)式、(5)式に従います。

k: 反応速度定数
A: 頻度因子
E: 活性化エネルギー
R: 気体定数 (8.31J/deg)
T: 絶対温度 (K)

上記(5)式をアルミ電解コンデンサの寿命に当てはめると、(6)式となり、(7)式に変換されます。

Lo: 温度Toの時の寿命 (hours)
Lx: 温度Txの時の寿命 (hours)
To: 製品のカテゴリ上限温度 (K)
Tx: 実使用時の周囲温度 (K)

実際の寿命推定は、近似的に(8)式を用いています。

Lo: カテゴリ上限温度において、定格電圧印加または定格リプル電流重畳時の規定寿命(hours) (各製品の耐久性規定時間)
Lx: 実使用時の推定寿命 (hours)
To: 製品のカテゴリ上限温度 (℃)
Tx: 実使用時の周囲温度 (℃)
Bt: 温度加速係数

ここで、温度加速係数Btは、60~95℃では約2となり10℃2倍則として用いられています。ただし、アーレニウス式(6)では絶対温度の逆数1/Tと寿命の対数との間に直線関係が成り立つため、厳密には10℃2倍則で近似しない温度範囲があります。(Fig.19)
アーレニウス則と10℃2倍則の寿命計算結果

【Fig.19】アーレニウス則と10℃2倍則の寿命計算結果

特に105℃を超える温度保証の製品の寿命推定は、温度加速係数Btを推定する温度範囲によって係数を変える必要があります。実際の寿命計算については別途お問い合わせ下さい。
また、低温側での寿命については、実際の評価データが無いことや長期間の耐久については、電解液の蒸散以外に封口材劣化など別の要素を考慮する必要が有るため、Txは40℃を下限とし、かつ15年を推定寿命の上限として下さい。
2 印加電圧と寿命
定格電圧以下で使用する場合、一般的には印加電圧による寿命の差は少なく、周囲温度やリプル電流による発熱の影響と比べると、印加電圧の寿命への影響は無視できるレベルです。(Fig.20)

【Fig.20】耐久性(電圧パラメータ)

(注) 印加電圧による差異が少ないためプロットが重なっています。

ただし、サイズが大きく高耐圧の製品では、電解液の搭載量も多いため、温度による電解液の蒸散以外に、印加電圧による酸化皮膜の劣化の要素も無視できなくなります。
よって、定格電圧350Vdc以上の一部ネジ端子品では、印加電圧軽減による要素を寿命推定に盛り込んでいます。
3 リプル電流と寿命
アルミ電解コンデンサは他のコンデンサと比べ損失が大きいため、リプル電流により内部発熱します。リプル電流による発熱は温度上昇をともなうため、寿命に大きな影響を与えます。
したがって製品ごとに定格リプル電流を設定しています。

3-1 リプル電流と発熱

リプル電流印加時における消費電力は次式で表されます。

W:内部での消費電力
IR :リプル電流
R :内部抵抗(等価直列抵抗)
V :印加電圧
IL :漏れ電流

漏れ電流ILは最高使用温度で20℃の値の5~10倍程度に増加しますが、IR ≫ ILであるため、(10)式となります。
発熱と放熱による温度が平衡に達する条件を求めると、

β :放熱定数
A :ケース表面積(m2)
ΔT:リプル電流による自己温度上昇(℃)

D:ケースの直径(m)
L:ケースの長さ(m)

となり、自己温度上昇ΔTは(12)式となります。
また、リプル電流が120Hzの場合の自己温度上昇は(12)式から(13)式として表されます。
ここで

tanδ:120Hzにおける損失角の正接
ω :2πf(fは120Hz)
C :120Hzにおける静電容量(F)

リプル電流によるおおよその自己温度上昇ΔTは(14)式でも算出可能です。

Io : カテゴリ上限温度での周波数補正された定格リプル電流(Arms)
Ix :実使用時のリプル電流(Arms)
ΔTo: 定格リプル電流重畳時の自己温度上昇(℃)
シリーズごとに異なります。別途お問い合わせ下さい。

周囲温度Txを下げることで定格リプル電流以上の電流を印加することが可能なシリーズがありますが、自己温度上昇ΔTが高くなるため寿命は短くなります。ΔTは各周囲温度ごとに定められた限界値がありますのでこれを越えないようにご使用下さい。また、素子中心温度の限界値は『Tx+ΔT限界値』です。各周囲温度でのΔT限界値の一例を下表に示します。
周囲温度Tx 85℃以下 105℃
△T限界値 15℃ 5℃
ΔT限界値はシリーズごとに異なりますので、別途お問い合わせ下さい。

3-2 リプル電流と周波数

通常、定格リプル電流値は120Hzまたは100kHzの正弦波の実効値で規格化されておりますが、等価直列抵抗ESRが周波数特性をもつため、周波数によって許容できるリプル電流値が変ります。スイッチング電源のように、アルミ電解コンデンサに商用電源周波数成分とスイッチング周波数成分が重畳されるような場合、内部消費電力は、(15)式で示されます。

W:消費電力
If1、If2、…Ifn: それぞれ周波数f1f2、…、fnにおけるリプル電流値(Arms)
Rf1、Rf2、…Rfn: それぞれ周波数f1f2、…、fnにおける等価直列抵抗値(Ω)

各周波数における周波数補正係数をFfnとし、foをリプル電流の基準となる周波数とすると、Rfn = Rfo/Ffn2の関係が成立するため、各周波数成分のリプル電流値を基準となる周波数のリプル電流実効値Ifoに換算するには(16)式を用います。

Ifo:基準となる周波数に換算したリプル電流値(Arms)Ff1、Ff2、…Ffn: それぞれ周波数f1f2、…fnにおける周波数補正係数

なお等価直列抵抗は温度によって、βは基板装着状態によって値が変化します。より正確なΔTを求めるには、熱電対による実測を推奨します。

3-3 推定寿命式

周囲温度、リプル電流による自己温度上昇と印加電圧の影響を考慮した推定寿命式は、一般に(17)~(19)式で表されます。

● チップ形、リード形:定格電圧印加で耐久性を規定している場合

● チップ形、リード形:定格リプル電流重畳で耐久性を規定している場合

●基板自立形、ネジ端子形の場合

Lo : カテゴリ上限温度において、定格電圧印加時の規定寿命(hours)
Lr : カテゴリ上限温度において、定格リプル電流重畳時の規定寿命(hours)
Lx :実使用時の推定寿命(hours)
To :製品のカテゴリ上限温度(℃)
Tx : 実使用時の周囲温度(℃)40℃以下は、40℃として寿命推定して下さい。
ΔT :リプル電流重畳による自己温度上昇(℃)

※ΔTo:定格リプル電流重畳時の自己温度上昇(℃)
※Kt :周囲温度加速の補正係数
※Kv : 電圧軽減率(基板自立形160Vdc未満、ネジ端子形350Vdc未満は1)
※A : リプル電流重畳による自己温度上昇加速係数(使用条件によって異なります。)
※につきましては別途お問い合わせ下さい。

カテゴリ上限温度が125℃以上の製品の推定寿命式は、別途お問い合わせ下さい。
対象シリーズ:MXB、MHS、MVH、MHL、MHB、MHJ、MHK、
GPA、GVA、GXF、GXE、GXL、GPD、GVD、GQB、GXA

推定寿命式で計算された結果は保証値ではありませんのでご注意下さい。コンデンサ検討の際には機器の設計寿命に対し十分余裕のある物を選定して下さい。また、推定寿命式で計算された結果が15年を超える場合は、15年が上限となります。推定寿命15年以上をご検討される場合は、別途お問い合わせ下さい。

参考となる記事を用意しています。合せてご覧ください。 Web上で寿命計算できるサービスがありますので、是非ご利用ください。

寿命計算

寿命計算ツール

4 充放電と寿命
アルミ電解コンデンサへ電圧を印加すると陽極箔の誘電体に電荷が蓄積されます。放電抵抗を通じて放電した場合、陽極箔側に蓄積された電荷が陰極箔に移動します。この際、移動した電荷により陰極箔でアルミと電解液による化学反応(誘電体形成)が起きます。

このような充放電を繰り返した場合、化学反応が進行し陰極箔容量は減少しコンデンサの容量も減少していきます。また、発熱・ガスも伴います。充放電条件によっては、内圧が上昇し圧力弁作動または破壊に至る場合があります。アルミ電解コンデンサを以下の用途でご使用頂く際はご相談下さい。
  • 頻繁に電源のON/OFFする回路
  • 周期の早い急速充放電を繰り返す回路
  • 電圧変動の大きな充放電を繰り返す回路
【Fig.21】充電時の電荷の状態

【Fig.21】充電時の電荷の状態

【Fig.22】放電時の電荷の状態

【Fig.22】放電時の電荷の状態
(電源V₁を外し、放電した状態)

放電時の電荷の状態より電気量Qを求めると

よって
 
一般品と充放電用特殊品の比較データをFig23~25に示します。
【Fig.23】急充放電特性(充放電回数の影響)

【Fig.23】急充放電特性(充放電回数の影響)

【Fig.24】急充放電特性(印加電圧の影響)

【Fig.24】急充放電特性(印加電圧の影響)

【Fig.25】急充放電特性(周囲温度の影響)

【Fig.25】急充放電特性(周囲温度の影響)

5 ラッシュ電流について
電源の起動時や溶接機の充電開始時に流れるラッシュ(突入)電流はmsec単位ですが、電流は通常使用時の10~1000倍になることがあります。一般に単発のラッシュ電流は、その時間内での発熱エネルギーが微小であるため、問題になりません。但し、頻繁な繰り返しを行う場合は過リプル電流重畳と同様、素子の発熱が許容値を超えたり、外部端子の接続部やコンデンサ内部の引出しリードと箔の接続部で、異常発熱が起こることがあるため注意が必要です。

 
6 異常電圧と寿命
異常電圧の印加は発熱およびガス発生に伴う内圧上昇が生じ、圧力弁作動または破壊に至る場合があります。

6-1 過電圧の場合

定格電圧を超える過電圧を印加すると、陽極箔で化学反応(誘電体形成反応)が起きます。その際、漏れ電流が急激に増大することにより、発熱・ガス発生に伴う内圧上昇が生じます。
この反応は印加電圧・電流密度・環境温度によって加速され、圧力弁作動または破壊に至る場合があります。また、静電容量の減少、損失角の増加、漏れ電流の増加を伴い内部ショートとなる可能性があります。過電圧印加特性の一例はFig.26を参照下さい。

■リード形35V560μFの例

【Fig.26】105℃過電圧印加特性

【Fig.26】105℃過電圧印加特性

6-2 逆電圧の場合

逆電圧を印加すると、陰極箔で化学反応(誘電体形成反応)が起こり、過電圧の場合と同様に漏れ電流が増大し、発熱・ガス発生に伴う内圧上昇が生じます。
この反応は印加電圧・電流密度・環境温度によって加速され、静電容量の減少、損失角の増加、漏れ電流の増加を伴います。逆電圧印加特性の一例はFig.27を参照下さい。
印加される電圧が1V程度の場合でも、静電容量が減少します。逆電圧が2~3Vの場合は、静電容量の減少、損失角の増大、漏れ電流の増大により寿命は短くなり、更に逆電圧が高い場合は、圧力弁作動または破壊に至る場合があります。(Fig.27)

■リード形25V47μFの例

 【Fig.27】105℃逆電圧印加特性

 【Fig.27】105℃逆電圧印加特性

6-3 交流回路への使用

アルミ電解コンデンサを交流回路に使用した場合、陰極に電位がかかること及び過大リプル電流が流れたことと同じ状況となるため、内部で発熱・ガス発生に伴う内圧上昇が生じ圧力弁作動や封口部からの電解液漏れ、最悪の場合、爆発や発火に至る場合があります。さらにコンデンサの破壊とともに可燃物(電解液と素子固定材など)が外部に飛散する場合があり、電気的にショート状態に至ることもあります。交流回路には使用しないで下さい。

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