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アモルファス磁性体KAコイルを用いた大電流対応LCフィルタ

スイッチング素子を用いたパワーエレクトロニクス機器はエネルギー伝送時に高速のスイッチングを行うため、ノイズが発生しやすくなります。 また、モータなどの誘導性負荷では電流の急激な変化によってスパイク状の鋭いノイズが発生します。 本資料では、DCパワーラインの高周波ノイズ抑制を目的として、アモルファス磁性体コアを使用したコイルであるKAシリーズ(以下、KAコイル)と導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサによるLCフィルタ(ローパスフィルタ)の減衰特性の効果を検証しました。

1. ローパスフィルタの種類

●ローパスフィルタの構成例

直流電源ラインに挿入し、不要な高周波ノイズを除去します。
直流電源ラインで用いるローパスフィルタは電力ロスが少ないLCフィルタや、LCフィルタの段数を多くしたπ型フィルタ等が用いられます。
※本資料では、表のπ型フィルタについて説明致します。

ローパスフィルタの構成例

2. LC寄生成分による影響

コンデンサの周波数特性/コイルの周波数特性

コンデンサ(C)、コイル(L)は、図のような寄生成分があります。フィルタを構築する上で、これら寄生分を考慮した考察が重要となります。
コンデンサは、ESR、ESLの小さい品種、またコイルについては、R成分、C成分の小さい品種を選定する事でフィルタ特性を向上できます。
特にコイルのR成分については、交流損失と直流損失に関係しますが、電源ラインでは銅線の抵抗分による電力損失及び発熱が問題となります。 本資料で紹介するKAコイルは、巻き線構造は1ターン貫通構造である事から、直流抵抗は小さく 電力損失及び発熱が低減できます。また銅線巻き線間で発生するC成分も小さい為、高い周波数までインピーダンス低下がありません。

3. π型フィルタの理想と実際

図1. π型フィルタ理想特性と実際

図1. π型フィルタ理想特性と実際

  1. Rin、Routが大きい場合に効果があります。
  2. フィルタカットオフ周波数fc1はCとLにより図1の式①で決まります。fc1以降は-60dB/dec.の減衰特性となります。 この減衰量はIN側のRinとCによるRCフィルタの-20dB/dec.とOUT側のLCフィルタの-40dB/dec.の合計の減衰量となります。
  3. ノイズ減衰量最大点(bottom共振周波数fc2)は、Cと同CのESLにより図1の式②で決まります。
  4. ノイズ減衰量最大値はCのESRで決まります。
    ESRが大きくなるとノイズ減衰量最大値が小さくなり、bottom共振周波数fc2は高い方にシフトします。
  5. 上記よりπ型フィルタを理想特性に近づける為にはCのESR及びESLが低い品種を選定する事が重要です。

表1.本資料のフィルタで使用する部品型番と本資料での略称

●コイル
品番 LKKA0200R5K1FF0E
定格 0.7μH/0A, 0.5μH/20A(20kHz)
略称 KAコイル
●導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ
品番 HHXF630ARA101MJC5G
定格 100μF/63V (ESR=10mΩ)※SPICEモデル値
略称 ハイブリッド、ハイブリッドコンデンサ
●アルミ電解コンデンサ(サンプル1)
品番 EMHK350ARA101MF80G
定格 100μF/35V (ESR=250mΩ)※SPICEモデル値
略称 アルミ電解コンデンサ MHK100μF/35V
●アルミ電解コンデンサ(サンプル2)
品番 EMZR500ARA101MF80G
定格 100μF/50V (ESR=290mΩ)※SPICEモデル値
略称 アルミ電解コンデンサ MZR100μF/50V
●アルミ電解コンデンサ(サンプル3) 減衰特性比較用
品番 EMZR250ARA471MHA0G
定格 470μF/25V (ESR=75mΩ)※SPICEモデル値
略称 アルミ電解コンデンサ MZR470μF/25V

4. 考察方法

SPICEモデルによるπ型フィルタをシミュレーションより評価します。

  1. フィルタ構造:π型フィルタ
  2. フィルタIN側からノイズ発生源及びラインインピーダンスの合計をRin=0.5Ω。
    フィルタOUT側の負荷及びラインインピーダンスの合計をRout=50Ωとしました。
  3. IN側、OUT側のコンデンサCは同値とします。
π型フィルタの図
目標減衰特性は以下とします。
周波数帯域
: 100kHz~5MHz
減衰量
: -40dB以下
使用部品は表1の品種を使用します。
LはKAコイルのLKKA0200R5K1FF0Eで固定。またコンデンサESRも実績値として表1のSPICEモデル値を使用します。各コンデンサ容量は100μFを基準に考察します。

5. コンデンサ品種の効果1 (KAコイルなし)

図2. コンデンサのみKAコイルなしの減衰特性

図2. コンデンサのみKAコイルなしの減衰特性

まず最初はKAコイル無しコンデンサのみでのフィルタ特性を図2に示します。 IN側のRinとRCフィルタを構成する為、ハイブリッドコンデンサHXFを使用した場合、KAコイルなしでも本回路条件では、ある程度良好な減衰特性を有しますが本資料での目標減衰特性は満足出来ません。

6. コンデンサ品種の効果2 (KAコイルあり)

図3. KAコイル挿入によるフィルタ特性

図3. KAコイル挿入によるフィルタ特性

KAコイルを挿入したπ型フィルタ効果を図3に示します。
KAコイルとハイブリッドコンデンサ(HXF)の組み合わせで目標減衰特性をクリアしています。
アルミ電解コンデンサ(MZR、MHK)を使用した場合、目標減衰特性は得られません。この理由はコンデンサのインピーダンス|Z|とESRに関係します。

図4. ハイブリッド、アルミ Z-ESR特性比較

図4. ハイブリッド、アルミ Z-ESR特性比較

各コンデンサのインピーダンス|Z|とESRを図4に示します。
コンデンサの機能としてインピーダンス|Z|が等価直列抵抗(ESR)より大きい事が必要です。 ハイブリッドコンデンサは、約200kHzまでコンデンサ機能が維持出来ています。
一方、アルミ電解コンデンサでは、等価直列抵抗(ESR)が大きい為、約20kHzからインピーダンスがESR成分となり、結果20kHz以降はコンデンサではなく抵抗となりKAコイルとESRによるLRフィルタとなります。
結果フィルタ特性は大きく悪化します。

アルミ電解(MZR)で本資料目標減衰特性を満足するには。

図5. 目標減衰特性をアルミ電解(MZR)でクリアする構成例

図5. 目標減衰特性をアルミ電解(MZR)でクリアする構成例

アルミ電解コンデンサ(MZR)で本資料目標減衰特性を満足する為には、コンデンサの大容量化及びESR低減が必要な為、コンデンサを複数並列接続が有効となります。 図5ではフィルタOUT側をMZR470μF/25Vの4個並列接続に変更する事で目標減衰特性を満足出来ました。
これはハイブリッドコンデンサ1個使用と比較して、フットプリントが4倍になっています。

図6. MZRコンデンサ変更によるESR改善

図6. MZRコンデンサ変更によるESR改善

アルミ電解コンデンサMZR470μFを4個並列接続する事で目標減衰特性が改善出来た理由は、 図6によりMZR100μFが1個に対しMZR470μF×4個並列接続による静電容量UPとインピーダンス|Z|の低減、及びコンデンサ4個並列接続はESRも1/4に低減する事からフィルタ特性が改善しています。
またESLについてもESR同様に低減する為、高い周波数で減衰特性が改善します。

7. フィルタ直流電流重畳特性

図7. KAコイル+HXF100μF/63Vによるフィルタ重畳特性

図7. KAコイル+HXF100μF/63Vによるフィルタ重畳特性

図7にフィルタの直流重畳特性を示します。 KAコイルとハイブリッドコンデンサHXF100μF/63Vによるフィルタの直流電流重畳特性は、直流0A、20A(定格)、30Aにおいて、フィルタ減衰特性はほぼ同等特性を維持できます。
この理由はKAコイルの直流重畳特性が、図8のようにインダクタンスの電流依存性が小さい事によるものです。
よって直流重畳電流が大きく変化しても安定したフィルタ減衰特性を維持できます。

図8. KAコイル(品番:LKKA0200R5K1FF0E)直流重畳特性

図8. KAコイル(品番:LKKA0200R5K1FF0E)直流重畳特性

また、KAコイルは表2より直流抵抗(DCR)が小さい為、大きな直流重畳電流が発生しても低電力ロス、低発熱であり周辺部品に熱的なストレスを与えない為、実装位置に自由度があります。

表2. KAコイルの直流抵抗

コイル品番 定格
電流
[A]
インダクタンス (20kHz) 最大
直流抵抗
[mΩ]
0A
[μH]
定格
[μH]
LKKA0200R5K1FF0E 20 0.7 0.5 0.78
LKKA0200R4K1DF0E 20 0.5 0.4 0.78
LKKA0300R3K1CF0E 30 0.4 0.3 0.78

8. 温度特性の影響

コンデンサの温度特性

●ハイブリッド HSE100μF/63V (外形Φ10×12.5L)

ハイブリッドコンデンサ(HSE100μF/63V)温度特性

図9. ハイブリッドコンデンサ(HSE100μF/63V)温度特性

本資料のフィルタに使用する部品ではありませんが、同じハイブリッドコンデンサであるHHSE630ELL101MJC5Sの温度特性を図9に示します。 ハイブリッドコンデンサは、-40°C、25°C、135°Cで200kHz程度までコンデンサとしての機能を発揮出来ます。
ハイブリッドコンデンサは低ESRで温度依存性も少なく理想的な減衰特性が得られます。

●アルミ電解コンデンサ MHK,MZR温度特性

図10. アルミ電解コンデンサ(MHK100μF/35V)温度特性

図10. アルミ電解コンデンサ(MHK100μF/35V)温度特性

アルミ電解コンデンサは、低温環境下でのコンデンサとしての機能は図10,図11に示すように数kHz程度が限界となります。 温度が高くなるに従いコンデンサ機能が改善されMHK100μF/35Vでは125°C,MZR100μF/50Vでは105°Cのとき約50kHzまでコンデンサとして使用可能となります。
アルミ電解コンデンサは、ESRの温度依存性が大きくフィルタ減衰特性が変化してしまいます。
特に低温環境下ではESRが大きく上昇しフィルタ減衰特性を悪化させるので注意が必要です。

図11. アルミ電解コンデンサ(MZR100μF/50V)温度特性

図11. アルミ電解コンデンサ(MZR100μF/50V)温度特性

【注意事項】

コンデンサの使用温度について

高温度(カテゴリ上限温度を越えた温度)で使用しないでください。 カテゴリ上限温度を超えて使用されるとき、コンデンサの寿命が著しく短くなったり、圧力弁動作などの破損に至ります。 温度は機器の周囲温度、機器内の温度のみでなく、機器内での発熱体(パワートランジスタ、抵抗等)の放射熱、リプル電流による自己発熱なども含めたコンデンサの温度を確認してください。 また、コンデンサの裏面に発熱体等を配置しないでください。なお、コンデンサの寿命は使用温度の影響を受けますので、カテゴリ温度範囲内でご使用願います。温度を低く設定すると長期の寿命が期待できます。

●SMコイル(KAコイルのリード品)温度特性

本資料のフィルタに使用するコイルではありませんが、同じアモルファス材コアを使用したKAコイルのリード品であるSMシリーズコイルのLESM050010P1BV0Eの温度特性を図12に示します。 温度範囲として-40°C~+135°C(実力150°C)においてインダクタンスの温度依存性は殆どありません。 よって温度依存性の少ない同種KAコイルと温度依存性の少ないハイブリッドコンデンサを組み合わせる事で、広い温度範囲で減衰特性が安定なフィルタを構築できます。

図12. SMコイルLESM050010P1BV0Eの温度特性

図12. SMコイルLESM050010P1BV0Eの温度特性

アルミ電解コンデンサを使用したπ型フィルタの温度特性

図5でご紹介したアルミ電解コンデンサMZR 470μF/25Vを4個使用し本資料での目標減衰特性を満足したフィルタ仕様を例にとり、図13にその温度特性を示します。 アルミ電解コンデンサでは、温度依存性が大きく高温ではESR低下による減衰特性の改善が見られますが、低温ではESRが増大しコンデンサとしての機能が著しく低下してしまいます。 結果、目標減衰特性を外れ、フィルタ特性は温度依存性のある不安定な特性となってしまいます。

フィルタOUT側のCをMZR 470μF/25Vの4個並列接続に変更して本資料の目標減衰特性を満足させたπ型フィルタ仕様
π型フィルタの回路図
図13. KAコイル+フィルタOUT側アルミ電解コンデンサをMZR 470μF/25V×4個並列接続としたπ型フィルタ温度特性

図13. KAコイル+フィルタOUT側アルミ電解コンデンサをMZR 470μF/25V×4個並列接続としたπ型フィルタ温度特性

9. 技術支援ツールの活用

図14. LCフィルタSPICEシミュレーション

図14. LCフィルタSPICEシミュレーション

図15. LCフィルタ実測とシミュレーション比較

図15. LCフィルタ実測とシミュレーション比較

図14,図15にSMコイルとハイブリッドコンデンサのSPICEモデルによるLCフィルタ再現性をご紹介します。 技術支援ツールのSPICEモデルを使用する事により、より実機に近い回路特性を推測できます。

KAシリーズコイルのSPICEモデルについて

KAコイルモデルを図16に示します。
KAコイルモデルは現在暫定版の為、非公開としておりますが個別対応で提供可能です。重畳電流特性については代表電流値毎のモデルで対応します。 図17に直流重畳電流0Aでのインピーダンス再現性を示します。
本資料でのフィルタシミュレーションもこのモデルを使用しております。

図16. KAコイルLKKA0200R5K1FF0EのSPICEモデル

図16. KAコイルLKKA0200R5K1FF0EのSPICEモデル

図17. KAコイルLKKA0200R5K1FF0Eの直流重畳0Aモデルによるインピーダンス特性再現性

図17. KAコイルLKKA0200R5K1FF0Eの直流重畳0Aモデルによるインピーダンス特性再現性

KAコイルと類似構造であるSMコイルのSPICEモデルについては"アモルファス磁性体SMコイルを用いた大電流対応LCフィルタ"の記事をご覧ください。

10. まとめ

※KAコイルとハイブリッドコンデンサによるπ型フィルタについて

KAコイルの低DCRによる低電力ロスとハイブリッドコンデンサの低ESR、温度安定性の複合効果として、以下3項目の利点があります。

  1. 大電流電源ラインに使用可能。
  2. 減衰特性-60dB/dec.が得られる。
  3. 環境温度により減衰特性が変化しない。

【補足1】
ハイブリッドコンデンサ使用の場合、急峻な減衰特性(理想減衰量)が得られる為、カットオフ周波数fc1(図1参照)を高く設計できます。これはコンデンサの低容量化と部品の小型化に貢献出来ます。

※KAコイルとアルミ電解コンデンサによるπ型フィルタについて

アルミ電解コンデンサはESRが高く、また温度変化も大きいですが、以下の条件では選択の余地はあると考えられます。

  1. 大容量コンデンサが必要。
  2. 減衰特性が厳しくない。
  3. 温度一定。(低温ではESR上昇注意)
  4. 外形サイズ、フットプリントに余裕がある。

【補足2】
アルミ電解コンデンサを使用する場合、ESRが高い為、減衰特性はハイブリッドコンデンサ使用時より悪化しますが、カットオフ周波数fc1(図1参照)を下げる事=大容量化またはコンデンサの複数並列使用により目標周波数での減衰量を得る事が可能となります。

11. 本資料取扱注意事項

  • 本資料は、製品の特性に対する参考データであり、製品の特性を保証するものではありません。
  • 採用に際しては、製品をより正しく、安全にご使用いただくために、本資料に依拠する事なく、必ず製品を実装し、試験等を行なった上で決定してください。
  • 本資料は、改良その他の理由により予告なく追加・変更・修正を行う場合があります。
  • 本資料の使用による損害等について、日本ケミコン株式会社は一切の責任を負いませんのでご了承ください。
  • 本資料の著作権はすべて日本ケミコン株式会社にあります。

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