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生成AI分野で活用されるアルミ電解コンデンサ

パソコンを操作する女性のイメージ

2023年は各業界への生成AI導入が本格化したことで「生成AI元年」と呼ばれる年でした。2022年11月にOpenAIのChatGPTが公開されて以降、生成AIに大きな注目が集まりました。
半導体、特にGPU(Graphics Processing Unit)に焦点が当たる生成AIですが、日本ケミコン(以下、当社)が生産している受動製品、特にアルミ電解コンデンサはどのように活用されているのでしょうか。具体的な製品を挙げて説明します。

受動部品

外部からエネルギー(電力)を受け取り、貯蔵・放出・消費する部品。
コンデンサ、コイル、抵抗などがあります。受動部品に対して、半導体、真空管のような増幅*1・整流*2作用を持つ部品を能動部品と呼びます。

  1. 増幅: 電極の1つに電流を流すと、他の電極間に大きな電流が流れる作用
  2. 整流: 一方向のみに電流を流し、逆方向の電流は流さない作用
  • 抵抗器
  • アルミ電解コンデンサ
  • チョークコイル
  • セラミックコンデンサ
  • 棒状コイル

生成AIと電子部品

生成AIは数十億のパラメータを処理することで学習・生成することから、大規模なコンピューティング環境を必要とします。
多数のパラメータを並列処理するにはAIアクセラレータと呼ばれる半導体が用いられますが、そこには従来のCPU(Central Processing Unit)よりも大規模な並列処理が可能なGPUなどを使用することが一般的です。

個人で保有するデバイス(パソコン、モバイル端末)にも人間の脳内ネットワークを模した機械学習である「ニューラルネットワーク」に対応した半導体が搭載され、画像処理などで生成AIの利用が進んでいますが、大規模な生成AIはデータセンタに格納されているシステムをネットワーク経由で利用しています。

データセンタとは

データセンタ内のサーバのイメージ

データセンタは大量のコンピュータを専用の建屋や空間に設置して、遠隔地から利用する施設です。ほとんどの場合、データセンタ専用に建築されたビル内に構築されており、高度なセキュリティが求められることからその内部を一般の人が目にする機会はほとんどありません。
このような施設は生成AIに限らず、クラウドサービスの活用が進むことで規模の拡張が続いています。

2024年の約45kMWhから2029年には約73kMWhまで規模の拡張が予測されるデータセンタ電力容量規模の推定グラフ
データセンタ市場規模(電力容量[MW]規模) *出典

当社のWebサイトを含む多くの企業・個人が運営するWebサービス・コンテンツがクラウドサービスまたはデータセンタ内に設置された自社の設備を経由して提供されています。個人においてもSNSや画像の保存先として、無意識のうちにクラウドサービスを利用していることと思います。

データセンタの設備

ここまでに紹介したデータセンタは従来から使用されているクラウドサービスだけでなく、新たに活用が進む生成AIでも欠くことのできない施設であることをご理解頂けると思います。
それでは、データセンタにはどのような設備があるのでしょうか。当社が取り扱う電子部品が使われる箇所を中心に見ていきましょう。
CPUやGPUに使用される半導体は直流電圧でなければ動作しません。これは半導体の構造が2種類の材料(p型、n型)をサンドイッチ状に組み合わせた形であり、電流を流す方向が決まっているからです。
近年の半導体は動作する電圧が低く、電流が大きいという特徴があります。高圧電線から受電し、半導体に適した直流電圧を作り出すには次のような設備を経ます。

用語の説明

1kVは1000Vを意味します。1kgが1000gであるのと同じく、単位の表し方です。
Vacと書かれている場合、交流の電圧を意味します。
Vdcと書かれている場合、直流の電圧を意味します。
例えば、アルカリ乾電池は1.5Vdcなので、直流で電圧1.5Vという意味になります。

受電設備
受電設備(高圧電線と変圧器)のイラスト

高圧電線から特別高圧と呼ばれる66kVや22kVを受け取ります。

遮断器
遮断器のイラスト

遮断器は受電設備を配電系(送電線など)から切り離す装置です。
10kVを超える電圧を確実に遮断し、アーク放電(火花)を起こさない特殊構造を持つスイッチです。

変圧器
変圧器のイラスト

データセンタ内では変圧器を使い、特別高圧と呼ばれる66kV/22kVacを、サーバシステムで使う100~277Vacに3段階に分けて変換しています。

変圧の段階
1) 66k/22kVac → 6.6kVac
2) 6.6kVac → 400Vac
3) 400Vac → 100~277Vac
無停電電源装置(UPS)
UPSの機器のイラスト

停電が発生した場合でも一定時間、稼働が続けられるように電池を搭載した機器です。

電源装置(AC/DC)
AC/DC変換アイコン

100~277Vacを直流の12Vdcまたは48Vdcに変換します。

サーバ・オンボード電源(POL)
コンピュータ基板のイラスト

内部の各部品が使用する電圧に変換します。基板上の回路にこの機能を持たせています。

GPU近傍電源(POL)
プロセッサ(GPU)のイラスト

1Vdc程度の低電圧ながら、大電流に対応した電源です。
負荷が変動した場合でもすぐに追随できる設計になっています。

これらの設備の中で、アルミ電解コンデンサが使用されている機器について詳しく説明します。

1. 遮断器

高電圧を送電線から受電する箇所に使われる遮断器(ブレーカーのようなもの)は真空遮断器やスイッチギア、ガス絶縁遮断器と呼ばれるものが使用されます。電源が失われた場合でも緊急でOFF動作が出来るように大容量のアルミ電解コンデンサが使用されます。

使用されるアルミ電解コンデンサの例

2. 電源装置(AC/DC)
ラック内に格納されるサーバ用電源のイメージ
サーバ用電源のイメージ

交流の電気を直流に変換すると同時に、適切な電圧に調整します。身近なものではACアダプタやUSB充電器に近い役割があります。(日本国内のUSB充電器の場合は交流100Vacを直流5~20Vdcに変換。出力は5~100Wが一般的。)

日本国内のデータセンタでは、サーバユニットを集積したラックに通常200Vacを供給し、これを12V/48Vdcに変換してサーバ内部に供給します。消費電力はサーバの種類によって異なりますが、標準的なもので数百Wから1kW程度、生成AI向けのサーバシステムでは10kWを超えるものが数百万台単位で使用されています。*3
(ドライヤーが1kW程度なので、サーバが非常に大きな電力を使用することがイメージできるでしょう)
サーバ用の電源は限られたラック内のスペースに格納するため、非常に狭い場所に収まる設計にする必要があります。当社のアルミ電解コンデンサは電源の中で整流*4や出力保持*5機能を実現する為に使用されます。生成AI向けの超大出力モデルの場合は縦横比が縦方向に長く、高容量のアルミ電解コンデンサが使われることが増えています。

縦長(長L品) アルミ電解コンデンサの例

  1. 電源1台当たりのワット数です。ラックには数台~10台以上の電源が搭載されることが一般的です。
  2. 整流: 電源装置における整流とは、交流を直流に変換することです。絶えず電圧が変動する交流を半導体(ダイオード)とコンデンサを使用して電圧が一定の直流にします。
  3. 出力保持: 周辺機器の影響でコンセントの電圧が一瞬低下した際やサーバ側の必要電力が急変した場合でも出力電圧を保持します。コンデンサに蓄えた電気を供給することで実現します。
参考

USB充電器には複数のアルミ電解コンデンサが使用されています。
このX線写真は60Wクラスの充電器を撮影したものです。円筒形の部品が4個搭載されており、アルミ電解コンデンサが使われていることが分かります。

USB充電器のX線写真
USB充電器のX線写真
(円形の部品がアルミ電解コンデンサ)

3. 無停電電源装置(UPS)

データセンタのサーバは24時間稼働し続けることが求められます。
UPSは電池を内蔵することで、落雷や送電線の障害などで一時的に停電した場合でもサーバへの電力供給を続け、稼働を継続させます。
UPSには様々な方式が存在するものの、汎用的なモデルでは交流電力を直流に変換してから電池を充電し、放電時には電池から供給される直流を交流に変換してサーバへ送ります。
当社のアルミ電解コンデンサは交流→直流、直流→交流の変換部に使用されます。

交流電流を直流に変換し電池を充電、放電時に電池からの直流電流を交流に変換してサーバへ送るUPSの仕組みを表したイメージ
UPSの内部機器構成と電圧波形
4. サーバ・オンボード電源

電源装置(AC/DC)から供給された電圧(12/48Vdc)をサーバ内部の各パーツに最適な電圧に変換します。
サーバには冷却ファン、ストレージ(HDD/SSD)、CPU、GPUなど動作電圧の異なるパーツが使われています。
12Vdcから5Vdcや3.3Vdc、1Vdc以下の低い電圧へ変換する為、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサやセラミックコンデンサが使用されます。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサのラインアップ

5. GPU近傍電源

GPUはCPUと同様に、専用の電源安定化回路(VRM: Voltage Regulator Module)が使用されます。
GPUに供給される電源電圧が大きく変動すると、演算時にエラーを起こす可能性がある為、電圧維持精度の高い回路が準備されています。
ここにも導電性高分子アルミ固体電解コンデンサやセラミックコンデンサが使用されますが、特にESR(内部抵抗)やESL(内部インダクタンス)に厳しい性能要求があります。
当社の製品はVRM向けの超低ESR品をラインナップし、CPU/GPU周辺にご採用頂いております。

VRM向け推奨品

プロセッサ周辺にVRMの配置されたGPUカードのイメージ
GPUカードのイメージ

今後の発展

1. 高出力電源への対応

生成AIのみならず、通常のデータ処理などのクラウドサービス用のサーバも高密度設置が進展し、電源の高効率と高出力化が求められ続けます。
高効率化のひとつの解として、高電圧給電が検討されています。高電圧にすることで、同じワット数の場合、電流(アンペア)を減らすことが可能です。電流を減らすことで配線を細くすることが可能であり、同じ配線径の場合には電力損失を減らすことが可能となります。

  1. 交流電圧を200Vacから更に高くする
  2. 数100Vdcの直流で配電する(高圧直流給電)
  3. 48Vdcの直流で配電する(48V直流給電)
  4. サーバ内部の電圧ラインを12Vdcから48Vdcに高くする

いずれかを採用もしくは組み合わせることが検討されています。
当社ではいずれの場合でも対応可能な製品をラインアップすることで、市場要求にいち早く対応します。

  1. 500V超の高電圧に対応した大容量アルミ電解コンデンサ
  2. 450V超の大容量アルミ電解コンデンサ、インダクタ
  3. 63V以上の定格電圧を持つハイブリッドコンデンサ
2. 熱冷却

データセンタの消費電力の40~50%が冷却に使用されているとされており、効率よく熱冷却することは消費電力の削減、ひいてはCO2削減に繋がります。
冷却は大きく分けて「空冷」、「液冷(一般的な呼び方は水冷)」があります。特に水冷については冷却効率が高いことから開発が続けられており、近年では「液冷(Cold Plate)」が実用化され、将来の技術として「液浸(Liquid Immersion Cooling)」が開発中です。

i. 液冷(Cold Plate)

液冷装置のイメージ

パイプ内に冷媒を循環させて冷却する方式です。電子部品と冷媒はパイプやヒートシンクを挟んで接触するため、直接触れることはありません。

ii. 液浸(Liquid Immersion Cooling)

液浸冷却されているサーバのイメージ

絶縁かつ不活性な溶媒中に電子部品が搭載された機器を丸ごと浸して冷却する方式です。電子部品と冷媒が直接接触し、内部まで浸透することから長期間の信頼性など検証すべき課題があります。

当社では次世代の冷却方式である液浸冷却に対応した製品開発を進めています。
既にサンプル出荷を開始し、いち早く市場要求に対応できる体制を整えています。

液浸冷却対応品

「新商品/開発中商品情報」のページで「液浸冷却対応品」の表示があるシリーズをご案内しております。
サーバ用電源に不可欠な高電圧品から導電性高分子を使用した低抵抗(ESR)品まで選択頂けます。

これまでに説明した通り、生成AIとクラウドの進展によるデータセンタの増加はアルミ電解コンデンサを始めとする電子部品に対して新たな技術要求を発生させます。
当社はアルミ電解コンデンサのグローバル・トップシェアメーカーとして次世代の方式を見越した技術開発により、豊かな生活と環境負荷低減に貢献します。

脚注

記事中で使用している画像は理解を促すためのイラストや想像図であり、実在の機器とは異なります。
このページは一部に生成AIを利用して作成しました。
*出典: Data Center Market Size, Industry Report on Share, Growth Trends & Forecasts Analysis up to 2029, Mordor Intelligence